親愛なる小林啓様。

さくら学院とBABYMETALの制作スタッフの謎を紐解く

ゆよゆっぺの軌跡(その3)

(その2)からの続き

ボカロPとしてメジャーデビュー

そんな中、ゆっぺ氏はVOCALOIDの開発元であるヤマハのレーベル「VOCALOID RECORDS」よりメジャーデビューすることになり、2012年9月26日にアルバム「Story of Hope」がリリースされます。

その頃のVOCALOID RECORDSは、ボカロ曲を集めたコンピレーションCDを多数制作していて、ゆっぺ氏の楽曲ももたびたびそのコンピレーションに収録されていましたので、その縁での単独名義アルバムの発売となったのでしょう。

「Story of Hope」は、ニコニコ動画で発表しているボーカロイド楽曲の中から、合計再生数226万再生以上(2012年7月10日現在)にもなる殿堂入り楽曲11曲をすべてリバイスして収録した、ゆよゆっぺのスーパーベスト盤とも言えるデビュー・アルバムだ。ラウドロックからエレクトロ、はたまた変拍子を活かしたロックまで、多彩なジャンル感の殿堂入り楽曲に加え、ファン待望の未発表曲「Story of Hope」を含む新曲3曲も収録予定だ。
https://www.musicman-net.com/artist/17501

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全曲クロスフェードデモ映像も公開されていました。

www.youtube.com

この映像中にはこんなコメントが・・・ゆっぺ氏がメジャーデビューした時期には、すでにBABYMETALへ楽曲(ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイトの編曲)の提供をしてた時期でもありました。
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アルバムの最後にボーナス・トラックとして収録された非ボカロ曲は、ボカロPとして名を上げるきっかけとなった「Hope」のバンドverであることに、当時のゆっぺ氏のボーカロイドシーンに対する複雑な思いが込められていたのかもしれません。(個人的には、ゆっぺ氏キャリアで最高の出来栄えとなった曲の1つであると思います。)

──そして、ボーナストラックには代表曲「Hope」をバンドスタイルでカバーしたものも収録されていますね。この意図は?

ゆよゆっぺ:今、並行してやってるMy Eggplant Died Yesterdayというバンドでやらせてもらったんですけど、これはやっぱりこれからの僕を見てほしいっていう意味合いがありますね。このバンドを始めてからまだ1年も経ってないんですけど、今後はその活動も増えていくと思うし、僕自身が歌う機会も増やしていきたいと思うので、そのとっかかりとして。ボカロPとして飛躍できた「Hope」をバンドとしてやることで、ここからさらに飛躍できるんじゃないかなっていう意味も込めて。
https://natalie.mu/music/pp/yuyoyuppe/page/3

 

自身のVo.によるアルバムの制作

ニコ動では、ボカロPがVOCALOIDに歌わせるのではなく、ボカロP自身が「歌い手」となって作る楽曲を「歌うPシリーズ」などと呼んでいたりもします。

ゆっぺ氏はボカロ曲だけではなく、早くからボカロ曲を自身が歌うセルフカバー曲の制作に取り組んでいました。(セルフカバーではなく、自身が歌う前提での楽曲制作も行っていたようです。)このうち何曲かは現在もニコ動で聴くことができます。

2010年10月には同人サークルDraw the Emotionalで、これらの楽曲を収めたアルバム『Wall in the presence.』を発表します。(現在入手不可)

ただ、このオリジナル版『Wall in the presence.』に収録されている曲で、現在ニコ動でゆっぺ氏自身の歌唱で聴ける曲は上記「S」だけであり、ボカロ版の曲がオリジナルである曲も少ないようです。これではニコ動に公開した曲をコンパイルしたものとは言えず、CD発売に向けて新たに制作したアルバムではないか?という想像もできます。このアルバムの制作経緯が知りたいところです。

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https://ototoy.jp/_/default/p/16164

このアルバムは、後に一部収録曲を入れ替えて、アルバム「Wall in the presence -Yuppeism edition-」として、(後にゆっぺ氏が所属する事務所Tokyo Logicの社長である)村田裕作氏がディレクターを務めていたLOIDレーベルから発表されることになります。

ゆよゆっぺのアルバム「Wall in the presence -Yuppeism edition-」が本日1月16日にiTunes Storeにて世界70カ国で配信リリースされた。ボカロPとして昨年9月にアルバム「Story of Hope」でメジャーデビューを果たしたゆよゆっぺだが、本作ではボーカロイドを使わず自身が歌唱。
本作は元々TSUTAYAのセル&レンタル限定盤としてリリースされていたが、今回はボーカロイド楽曲のカバーをゆよゆっぺ名義のオリジナル曲に差し替えた「Wall in the presence -Yuppeism edition-」として配信されている。

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LOIDレーベルから2011年11月23日付けで発表されていることがApple Musicサイトの表記から確認できるのですが、LOIDレーベルは2010年末には消滅しており、上記ナタリーの記事(2013年1月16日発表)と矛盾をします。発表日と発売元には疑問が残ります。

このアルバムは現在も比較的入手は容易で、各配信サイトでの入手も可能です。「ソロアーティスト・ゆよゆっぺ」の実質的にファーストアルバムとも言える作品であり、BABYMETALサウンドの元になったであろう音の断片が随所に伺える、BABYMETALファンは必携のアルバムだと思います。

 

ボカロシーンの停滞、そして撤退

ゆっぺ氏のニコ動投稿時期を見ていくと、2012年9月のメジャーデビューの話が浮上したであろう2011年中盤辺りから、ピタっと投稿が途絶えたように見えます。メジャーデビューに当たっての制作作業が立て込んでいたのもあるのでしょうが、実はこの辺りの時期からゆっぺ氏はボカロシーンから撤退を考えた様です。

そこには様々な思いがあったようですが、当時を振り返った本人の発言をいくつかピックアップしてみましょう。

ゆよゆっぺ:僕もVOCALOIDという文化に対して敬意を払っています。それでも、やはり新しい層を取り入れるのは難しくなってきていて、今のところ発展が望めないジャンルになってしまっているんですよね。

ゆよゆっぺ:かつてのボカロシーンは音楽的な無茶が通る場で、それをみんなで面白がっていたんですけど、最近は音楽的な挑戦をする人も少ないし、それを挑戦だと感じる人もいないんですよね。結果、今のボカロシーンでは僕の音楽的欲求が満たされなくなってしまったというか、満たされないからいい曲が書けないみたいな悪循環に陥ってしまって。
https://natalie.mu/music/pp/djtekina/page/4

ゆよゆっぺ:ただ、最近になって思うのは、ボーカロイドというものは、どうしてもつまらないものになってしまったというか……。僕が思っていたシーンじゃなくなってしまったという感覚は大きいですね。(中略)面白みがなくなっちゃった。その原因は、大人の力が見えるようになったことだと思うんです。好きにいろいろできる環境じゃなくて、お金稼ぎをできる場所になってしまった。

―シーンの変遷を考えると、2011年から2012年くらいがその境目でしたね。

ゆよゆっぺ:そうですね。その頃からボーカロイドが産業になったと思います。
http://www.cinra.net/interview/201605-djtekinasomething

ゆよゆっぺやっぱり感情の乗った音は人間にしか出せないんだよっていうことは言いたい。最近の若い子はボカロPを職業だと思ってるみたいなんですけど、俺はそれをすごく危惧してるんですよ。(中略)音楽は生身の人間がいてこそ成り立っているものだっていうことをこの作品を通して感じてほしいんです。
http://natalie.mu/music/pp/yuyoyuppe02/page/3

正直ここまでネガティブな思いを持っていたのは意外でした。ボカロ作でのメジャデビュー前後の時期にこの様な思いを抱えていたということは不幸と言わざるを得ません。

ボカロシーンが停滞した理由はいくつかあるのでしょうが、明らかに潮目が変わったのは上記にもある様に、2011年末〜2012年にかけてという認識と思われます。以前、拙稿でも取り上げました、GoogleのCM「Google Chrome×初音ミク」(EHAMIC氏が出演している)が、テレビ放映されたのが2011年12月から。このCMが放映された時期でもあります。

www.youtube.com

 

こうしてボカロシーンからは明らかに撤退したゆっぺ氏ですが、2014年には小説(アニメ)とボカロ曲を融合した「ぼかろくりっく」という作品に楽曲を提供します。そしてそのサウンドトラックアルバムとして「ぼかろほりっく」をリリースします。(2014年7月16日)

『ぼかろほりっく』は、作家の城崎勇太が綴った小説と、ゆよゆっぺの鳴らす音楽が完全連動したコンセプト作品である。
ゆよゆっぺ:僕はもともとバンドをやっていて、ボカロを始めて、いまはこういうことをしていると。その流れが、城崎さんが物語でやりたいものと似ているということでお話をもらったんですけど 

久々のボカロ曲制作ということでしたが、小説作家側の企画が先に立ち上がり、ゆっぺ氏に楽曲制作依頼が行われたという経緯のようで、そのころにはサウンドクリエーター(作詞・作曲・編曲)としてのキャリアをスタートさせていたゆっぺ氏にとっては、その仕事の一貫であったのではないかと想像しています。また、アルバムには唯一の非ボカロ曲が収録されていました。この曲はゆっぺ氏の作曲スキルの向上を感じさせる良曲になっていると思います。

 

このエントリでは諸々の事柄が錯綜しますので(サマリ)を参照下さい。 

(その4)へ続く